まだ中学生。

中学生のまま大人になりました。ご迷惑おかけしてます。

あの日あの駅あのトイレ

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 出勤前の朝にちゃんとウ◯コはしてますか?

 

 僕はしません、というかできない。いつも家を出る15分前位に起床しているので・・・。寝ぐせを直したり、歯磨きしたりしかできない。もちろん朝食の時間なんてあるハズもなく、慌ただしく玄関に走る毎日。奥さんに送り出され、僕は颯爽と電車に乗り込む。一見なんの変哲もない朝の通勤風景ではあるが、実は僕は毎日爆弾を抱えて通勤している事になる。そう、”奴”はいつも唐突だ。

 

 思えば僕の人生は常に”奴”と共にあった。

 

 小学生の頃は全男子が「トイレでウ◯コをしたら負け!」というわけのわからないローカルルールに支配されていた為、学校のトイレというのは常にお小水をする男子の出入りがあるもので誰にも悟られることなく大の方を成し遂げるというのはミッションインポッシブルであり、イーサン・ハントにさえ絶対に無理だった。仮にトイレが無人で運良く一人糞を達成して産み落とせたとしても、後からお小水をしにきた同級生らにその残り香を察知され「さっき出てきたあいつやったんじゃね!?w」と噂をクラス中に立てられ、その後一週間はあだ名に「下痢」や「臭い」といった不名誉な称号が冠されるといった腐敗しきった世界、それが当時の小学生のリアルだった。そんな腐った世の中でコナンばりの頭脳を持つ僕が編み出したメソッドは「自作自演作戦」であった。まずトイレに誰もいない瞬間を見計らって引田天功もびっくりの早業で大の方を出す、そしてそのまま流さずにトイレを出るのだ。当然便器には取り残されたウ◯コさんが鎮座したままだが、僕は大胆にもここでダッシュでクラスに戻り声高にこう叫ぶのだ

 「おい、誰かウ◯コしてそのままにしてるぜ!!!!」

 大人にとって流されずに放置されたウ◯コは単なるため息のネタだが、小学生男子にとっては世紀の大スクープ、号外なのである。その瞬間クラス中の男子がどっと沸きたち、報道カメラマンよろしく皆が一斉であるトイレに現場に走る。混乱する現場、「くっせー」「マジかよ!?」といった野次馬達のどよめき。それを後ろでほくそ笑みながら見守る僕。まさに完全犯罪だ。『犯人は現場に戻る』というのは紛れもない事実なのを僕はその頃から知っていた。ついでに誰もやりたがらないウ◯コを流すという作業をも僕はなんなくやってのけ、他の生徒達から若干のリスペクトさえ集めてしまう。

 

 また中学生の頃には月一の朝礼で僕はやはりビックネームに憑依され、あまりに便意を極限まで我慢し過ぎたため、命からがら駆け込んだトイレで事を済ませた直後に貧血でぶっ倒れるという芸当もやらかしたことがある。

 

 そう、奴が降臨したら最後、通勤電車内は地獄の一丁目。歯を食いしばりながらその便意に耐え続けるという陵辱プレイ"STAGE1"の開始だ。ようやく電車から降りれば駅ナカトイレという一筋の光明がさしてくるところだが、そこは業界人の方ならばご存知、地獄の二丁目。僕と同じようなエリート(腹痛)サラリーマン達がひたすら個室の順番待ちをするというSTAGE2の開始なのだ。終わりが明確に見えているSTAGE1と違い、STAGE2の難易度が高いとされているのは先のプレイヤー(ウ◯コしている人)の終了見込みが読めないところ、一旦流す音が聞こえたって油断して肛門括約筋を緩めることはできない、そこから第二ターンへ入るプレイヤーもいるからだ。まさに地獄であり修羅場であり戦場なのだ。

 

 しかしながら近年の戦場はより複雑化してきている。そう、「多目的トイレ/多機能トイレ」の登場だ。基本的には体の不自由な人が使用するために設置されているトイレだが、急な便意などの緊急を要する場合には一般サラリーマンにも使用が許可される特別な聖域。猛者達が列をなす主戦場に行く前、入り口にあるこの多目的トイレが空いていれば"ボーナスSTAGE"確定である。広々としたスペース、洋式便座、温便座、ウォシュレットに洗面台。和式で狭くて同胞が放ったものの的を外した炸裂弾の跡も生々しい既存トイレとは一線を画すスペックである。

 

 その日も僕はSTAGE1を軽々とクリアしSTAGE2まで進んできていた。通常トイレに向かう前に横目で多目的トイレのランプを確認すると、まさかの消灯(=空いてる)!・・・だと!? 「こいつぁ朝から縁起がいいや」とばかりに僕は入り口の「開」ボタンを猛プッシュ、久々のハイスペックトイレでのプレイにテンションがあがるのを感じた。が、自動ドアが開くと同時に下半身丸出しでロダンの"考える人"ばりに戦っているサラリーマンと目が合った。その距離約1m。一瞬時が止まった。僕だけではない、通勤ラッシュでトイレの前を通りすがった何十人の人の時間も一緒に止まった。一瞬「ザ・ワールド」のスタンドが発動してしまったかと思ったのもつかの間声にならない声をあげながら僕との間合いを詰めてきていた。「まずい、このままでは殺られるっ、なぜ中に人がっ!????」完全に狼狽しきった僕は反射的に多目的トイレの外側にある「閉」ボタンを押していた。音もなく閉じていくドア、そして時は動き出す。さっきまでの便意などはすっかり忘れ、僕は足早にその場から立ち去った、とにかくその場から離れたかったんだ。

 

 トイレから遠ざかるにつれ、僕の中では「なぜ?」が大きくなっていった。普段から物忘れがひどくドジること山のごとしの自分なので「使用中」ランプの点灯を見落とした!?いや仮に使用中であるならば外側からは開かないハズだ。そこで僕は以前に多目的トイレ内に貼ってあった注意書きを思い出した。そこにはこう書かれていた

『使用する時は必ず内側にある閉めるボタンを押して下さい。』

あぁそうだったのか、そこですべての点と点と下半身丸出しサラリーマンが線で繋がった。つまりあの同胞は僕と同じように切羽詰まっていて多目的トイレに駆け込んだのだ、そして事もあろうに外側の「閉」ボタンを押して扉が閉じてロックされたものと思い込みキックオフしてしまっていたのだ。当然ロックなんてされないし、外側から「開」ボタンを押せば開く。なんだか朝から妙に納得してしまっていたが、あの瞬間ぼくは後ずさりながら外側の「閉」ボタンを押したんだよな。ということはまた別の人が開けてしまうんじゃないか。同胞が無事にことを成し遂げられたか、彼がキング・クリムゾンスタンド使いならば今日の出来事をなかったことにできるのにな、と考えながら僕は職場のトイレでゆっくりコトを成し遂げた。